タイ語通訳の事前準備に時間が掛かり過ぎる理由とタイ語同時通訳者が絶滅の危機にある訳

コロナ前は1カ月の稼働日数は15-20日程度、このうち準備が必要である会議通訳は10日前後でした。少ないと感じる方もいるかもしれませんが、それでも常に通訳準備に追われた生活で平日夜も土日もゆっくりと休む暇は殆どありませんでした。(二児の母という事もありますが。)

特にセミナー、シンポジウム、カンファレンス、QC大会といった専門性が高い同時通訳案件は、前日に他の業務の依頼が来てもお断りして通訳準備をしていました。案件によっては2-3日他の仕事を受けずに準備に当てていました。

会議資料が1週間前に頂けるのであれば隙間時間に少しずつ準備することができ、前日や前々日も別の仕事を入れられるのですが、資料がいつ共有されるかは資料が送付されて初めて分かることが大半です。 

また、タイ語の会議通訳の準備は、提供される資料の言語によって必要となる準備時間が大きく変わってきます。資料が英語のみの場合と、日本語と質の良いタイ語翻訳の資料を頂いた時では準備時間に大幅な差が生じます。

資料を何語で頂けるかは直前にならないと情報が入らず、更にはタイ語翻訳の質が良くそのまま使用できるレベルのものであるかどうかは資料を読んで初めて分かることです。そのため事前準備のためにどれだけの時間を確保すべきか、別件の問い合わせが入った段階では不確定であるため、別件をお断りし少なくとも1-2日は終日準備に当てられるようにしています。

例えば英語⇔日本語⇔タイ語のリレー同通案件の資料が英語のみの場合、英語通訳者はその資料を見て母国語である日本語の用語を調べることが準備の中心となるでしょう。

しかし我々タイ語通訳者は、本業でない英語自体を理解することに苦戦し、更にタイ語と日本語の2言語でその内容の表現、用語を調べて準備しなければなりません。

タイ側からのプレゼン資料はタイ語が提供されることはほぼ無く大抵が英語のみ、しかも直前です。

日本側から日本語の資料が提供されたとしても、日タイの良い辞書がありません。(良い辞書ご存じの方がいらしたら教えてください。冨田竹次郎先生の辞書は2セット持っています。)

従って日英辞書で調べ、更に英タイ辞書で調べます。しかしその用語が正しくない可能性は十分にありますから、関連するサイトを幾つも調べて実際にどのように使用されているか確認した上でタイ語の訳語を決めます。専門用語はタイ語の後にカッコ書きで英語が併記されている事があるので、こうしたサイトを幾つも探して確認します。

しかし、こうした方法で時間をかけて一つの用語を調べてもタイ語訳自体が存在しておらず英語が使用されていることもあります。

より厄介で、しかし頻繁に遭遇することは、タイ語訳が業界内でも統一されておらず、何種類もの用語が存在することです。

当日スピーカーがどのタイ語訳を使うのか、それとも英語を使うのか、その時にならなければ分からないため、日本語、英語、複数のタイ語で専門用語に対応できるよう準備しておく必要があります。同じ会議内でもスピーカーによって使用する用語が異なることも珍しくありません。

タイ側の発表者が作成したタイ語資料を共有頂ければ解決する問題ですが、共有頂けることは年に数件あれば良い方です。

タイ語資料の作成自体が無い事が多いようですが、ある場合でも、この苦労が知られていないからか、通訳会社から日タイ何人もの関係者を通じて発表者までの連絡過程で意図が伝わらず、会議当日にタイ語資料の存在が発覚して大慌てすることが多々あります。

こうして苦労して無事対応できるようになった専門分野も、次回同じ分野の会議が数か月以内に開催されれば良い方です。

分野を限定して仕事を受けていたら実践の場が減り、生業として成り立ちませんので様々な分野に対応することとなり、準備がその度膨大になるのです。

これ程の時間をかけて失敗するリスクを抱え、半日料金や1日料金で難易度の高い同通案件を請けるより、それ程難易度の高くない数日間連続の遂次案件を請けた方が稼げますし失敗するリスクも少ないわけです。

そのために専門性の高い同通案件に対応する通訳者は絶滅危惧種の状態です。この状態を少しでも改善するために会議資料は1週間前までに、日本語、タイ語の資料があれば参考資料でも構いませんので共有頂けるようお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

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